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「はぁっは、はぁ・・・っ、な、なんで私、朝からこんな走ってんだろ」
死に物狂いで走ったら、いつの間にか校門まで着いていた。
私は朝には似合わない荒い息を整えながら、滲み出てきた汗を拭こうと鞄からハンドタオルを取り出した。
折角うっすら化粧もして、髪もセットしたのに全部台無し。
そんなことを考えながら顔をタオルで覆ったその瞬間、ガシリ、と大きい手に肩を掴まれた。
そして腹底から出したような低い声が私の耳元を襲った。
「テメェ・・・俺を置いてくなんざ良い度胸してんじゃねぇかァ」
「ひぃいいっ!!!」
そうだ、私はこの人から逃げてたんだ!と思うのもつかの間、
晋助は私の肩を掴んでいないもう片方の手でタオルで覆われている私の顔の鼻と口元当たりを覆った
勿論そんなことをしたら、息吸えなくて苦しいわけで、
「んぐぅ、んんんん゛ん゛ん゛っ!!!!!」
私は必死に晋助から離れようともがいた。
でもやっぱり男と女の力の差は歴然としていて、段々意識が遠く・・・・・
なるかと思ったら急に離されて、私はへにゃ、と地面に座り込んだ。
「で、校長室は?」
「ちょ、私死ぬかと・・・!!」
「校長室」
「ぐ・・・」
やっぱり晋助は最強に怖いと思う。
だって今だってほら、私見下ろされただけで声でないですもん。
文句の1つや2つ言うつもりだったんだけどな。
私は晋助の迫力というか、顔面凶器さに負けて目を逸らしながら職員玄関を指さした。
「あ、あそこ入れば目の前だから」
「ふーん、じゃ、また後でな」
「ぇ、あ、ちょっと・・・、」
「ありがとうぐらい言いなよ!」とか言おうと思ったけど、
瞬時にさっきの見下ろされた時の顔を思い出してその言葉は飲み込んだ。
私はその場から立ち上がって砂埃がついたスカートを叩く、と、
それに合わせるように予鈴が鳴り響いた。
「やば、初日から怒られる・・・!!」
***********************
「ったくよォ、初日から遅刻なんてどういうご身分なんですかー」
「だ、だから、朝から極悪人みたいな男子生徒に絡まれて大変だったんだってば!」
「先生そんなんじゃ騙されないぞー」
ペシ、と私の額に学級日誌がぶつけられた。
別に額は痛くはないけど、この行為は教卓の前で行われていて、
つまり、クラスメイト全員にこれを見られていると思うと、心臓が痛い。
だってほら、現にこれを見て総悟が口抑えて笑ってる、むかつく!
結局あの後急いだものの間に合わなくて、初日から遅刻。
いつもなら銀八はチャイム通りになんて来ないくせに、なんで今日に限ってくるんだか。
初日から恥ずかしいし、皆勤賞の夢は絶たれるし、もう色々駄目な気がする。
「ま、罰として今日から一週間お前が日誌つけろよ」
「え、なんで?!いつもそんなのないじゃん!」
「初日に遅刻ってのはそんだけ重いんですー」
「じゃ、この後始業式だからちゃんと来いよ」と言い残して、銀八は教室を出て行った。
私は日誌を破り捨てたい衝動を我慢して自分の席に戻る。
すると背後からむかつく奴が忍び寄ってきた。
「初日から遅刻なんて、アンタホント馬鹿ですねィ」
「うるさい、私に話しかけないでくれる?むかつくから」
私は目を合わせないように日誌を開いて書き始めた。
総悟はそれが気に入らないのか、私が握っているシャーペンを取り上げる。
「ちょ、返してよ!」
「萌夏のくせに生意気なんでさァ!」
「お前等は小学生か」
私と総悟が格闘していると、少し遠くで見ていたトシが溜息混じりに止めに入った。
トシは総悟から簡単にシャーペンを取り戻して、私に返してくれた。
あ、私とトシは凄い仲良しなんです。
今住んでる寮でもお隣さんで、夜な夜な・・・
「オイ萌夏、今すぐそのナレーションやめねぇとぶっ殺す!」
「いだっ、痛い痛いトシ!土方さん!土方様!」
トシは私の両頬を思い切り抓った。
そりゃ痛いのなんのって、めっちゃ痛い。
多分これやられるくらいなら一発殴られた方がまだマシってくらい痛い。
でも私が謝るとその両手は簡単に解かれて、変わりに少し冷たい掌が両頬を包んだ。
「変に疑われるようなこと言うんじゃねえよ」
「はーい、」
「オイそこ夫婦漫才してねェで、そろそろ体育館行きましょうぜ」
「って、元はと言えばテメェのせいだろ総悟ォオオオオオ!!!!」
パッと音がするくらい素早く手は私から離されて、
今度は全力で総悟を追いかけ回すトシ。
トシって私と総悟のお兄ちゃんみたいだなぁ、なんて思いながら
私は日誌を閉じてシャーペンをしまうと、2人を追って体育館へ向かった。
兄、
弟、
妹、
(今年で3年生だけど、)
(この関係は変わらないよね)
(……そういえば今日着任してくる先生ってどんな人なんだろ?)