もう済んでしまったことはどうしようもないし、
今更戻ることなんて絶対に無理だし、
とにかくもうあの人には関わらないようにしようそうしよう。
だって意味分からないじゃん、なんなのあの人。
保健室で女抱いてるし、最初から呼び捨てだし、胸揉んでくるし、
先生として最低、ってか人間として最低でしょ!
私は急いで保健室を後にし、できる限りの早足で昇降口に向かった。
高杉先生が追いかけてきていないのはわかっているけど、それでも一秒でも早く保健室から離れたかった。
あともう右に曲がれば昇降口、というところまで来て少しスピードを上げ、曲がった瞬間、
目の前に障害物があるのに気付いたものの避けることができずぶつかってしまった。
でもぶつかった人が倒れそうになった私を助けてくれ、片腕で抱きしめられる形となった。
「ぶっ」
「あ、こんなとこにいたのかよ」
声を聞いた瞬間私は肩をビクリと揺らした。
いつの間に先回りされてしまっていたんだろう。
保健室からはこの一本道だったはずなんだけど・・・
つかまた捕まったし!
抱きしめられているせいで顔は見えないものの、声はさっき襲われた人のもの。
私はゆっくりと拳を握った。
「おい、だいじょ・・「いい加減にしろォオオ!!」
「ブッ!」
ドス、と入ったのは鳩尾で、入った本人はその場に蹲った
「いい加減にしてよ先生っ!」
「っ、誰が先生だコラ」
「えっ?!」
ふと視線を下げると、ダークブラウンの綺麗な髪が目に写った。
少しして理解をした私の身体からは、みるみるうちに血の気が引けていく。
「し、晋助・・・!!」
「テメェ・・・、俺に喧嘩売るたァ良い度胸じゃねえか」
「え、いや、その、ごめ・・・ひ、人違いで・・・」
私は慌ててしゃがみ込み、晋助の視線と自分の視線を合わせた。
思い切り拳を突っ込んだから、流石の晋助でも痛かっただろうに。
保健室に連れて行きたいけど、そうもいかないし。
「ごめん、その、ちょっと今さっき嫌なことがあって・・・」
私はそっと晋助のお腹を撫でながらそう言う。
そして、顔を上げると、なぜか晋助の顔が目の前にあった。
「ちょ、近っ!!」
「・・・ったく、お前空気読めよ」
「は?!何が!!」
「今の完全にキスする空気だっだろうが」
そう言って晋助は、ずいっ、とより一層私に近付いてくる。
しかし、それを私は両手で口から顎を押さえつけるように阻止した。
「っ・・・・・・テメェ」
「ちょ、怒らないでよ!ぁ、て、てかさ、私のこと探してたの?!」
「あ、そうだった」
私の言葉で本題を思い出したらしい晋助は、
大人しく私から離れると立ち上がり私に手を差し出した。
私はその行為を素直に受け取る。
「早く寮に帰ろうぜ」
「え?」
「俺も今日から寮暮らしなんだよ、」
「ああ、そういうことか」
私も立ち上がると、ゆっくりと昇降口に向かって進み出す。
でもなんで晋助は私が寮暮らしってことを知ってるんだ?
え、まさかストーカー?!実は初対面じゃなかったとか・・・!!
「お前、今変なこと考えてたろ」
「ええっ?!」
「俺がお前のストーカーなんじゃないかとか」
「そ、そんなことないよっ!」
「お前が寮暮らしってのは、土方達に聞いたんだよ」
昇降口に着くと、各自外履きに履き替える。
晋助は上履きを自分の下駄箱にしまいながら、その時のことを話し始めた。
「俺は元々あいつ等に聞こうと思ったら、あいつ等は部活だからってお前を紹介されたんだよ」
「ああ、あいつら剣道部だからねー」
「ま、そういうことだから、無事俺を寮まで案内しろよ」
晋助はそういって私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。(というより掻き混ぜられた)
てか、なんで敢えて私を紹介してんだよあいつ等!!
・・・・・・ま、今日は一人で帰るのもアレだから、別にいいけど。
「つか」
「ん?」
「お前さっきなんであんなに急いでたんだよ」
晋助はまだ頭に手を乗せた状態で、私の顔を覗き込んできた。
うーん、話して大丈夫だろうか。
でも、聞いてもらいたい気もするし・・・。
「いやー、実はねー」
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「ありえねえ」
私達は朝出会った土手まで来ていた。
保健室であったことを粗方話し終わり、私は晋助の反応を待つ。
そして一言目に出た言葉がこれだった。
「ま、もう過ぎたことだけどさー」
「俺より早くお前に手出すとか有り得ねェだろ、」
「は?え、そこォ?!」
私はつい素っ頓狂な声を出してしまった。
いやだって、普通その発言おかしいでしょ!
そこは何学校でやってんだ、とか私に同情とか・・・じゃないわけ?!
・・・まずい、こいつもおかしいのを忘れてた!
「こうなりゃ早めに手出しとくべきだな・・・」
「え、ちょ、晋助さん何言っちゃってんの、聞こえてるんだけど」
「お前、今夜空いてるか?」
「空いてても絶対行かないわっ!!」
ペシン、
と私は晋助の頭を軽く叩いた。普段トシや総悟にやるノリで。
でもそれをやり終わった後に、私は空気が変わったのにすぐ気付く。
気付いてしまった以上、晋助の顔を見るのは怖すぎる。絶対鬼みたいな顔してる!
そうとなれば、もう取れる行動は一つしかないわけで・・・
「に、にっげろー!」
「てめ、おいコラ待てや!」
「軽く叩いただけなのにィイイイイ!!!」
夕陽に向かって走るのは
(一人の少女と一匹のオオカミ)
(オラ待てや!てめぇ二度も俺に手ェ出すたァ良い度胸じゃねぇかァ!!)
(いーやああーーっ!!誰かー!殺されるー!!)