「ママー、あのお話今日もしてくれるー?」
「えぇ、いいわよ、ほら、早くベッドに入りなさい」
「はーい」
「それじゃあ読むわね、・・・・むかーしむかしある所に・・・」
小さな村がありました
その村にはという肌の白い可愛い少女が住んでいました
は村でたった一つのパン屋の娘で
毎日せっせと親の手伝いをしていました
このお話は、そんな働き者で可愛いと
山の奥に住んでいる吸血鬼のお話
まだ続いている物語
「、このパンを工具屋のおじさんの所まで届けてくれるかい?」
「うん、行って来ます!」
ある日、いつもの様には母親にパンの配達を頼まれ
頭には小さなピンクの花が散りばめられたバンダナをし
お気に入りのワンピースとブーツを身に着けては元気良く家のドアを開けました
今日の届け先は村の外れにある工具屋さん
はそこに今まで一度も行った事がなく
母親からもらった小さな紙切れをポケットから取り出しました
その紙切れには工具屋さんまでの道が記されていました
パンが入った紙袋を片手にもう片方の手には紙切れを持って
はキョロキョロと辺りを見回しながら歩いていました
「この辺・・・よね?」
少しして村外れとの証拠として森が現れました
この森は昔から吸血鬼の城が何処かにあるという言い伝えがあり
子供だけ絶対に、例え大人がいたとしてもあまり奥までは行かせてもらえません
はそんな森が少し気になりながらも
仕事を終わらせようともう一度地図を見ようとしました
しかしその瞬間、一つ大きな風が吹き
吃驚したはつい紙切れを離してしまいました
紙切れはヒラヒラと空中を舞い
森の中へと入って行きます
は慌てて追いかけ、手を伸ばすだけでは届かないのでジャンプをして取ろうとしましたが
あと少しという所で届かず、気が付いたら森の中に迷い込んでしまっていました
「ぅそ、此処何処?;早くお仕事終わらせなきゃいけないのに」
早く済まさなければ折角の焼立てで温かいパンも冷めてしまう
きっとお母さんにも怒られる
はそう思い急いで引き返そうとしました
しかし
「おい、なんで此処に人間がいるんだ」
「ぇ・・・?」
はその声のする方へ振り向くと
そこには高そうな漆黒のマントに身体を包み
綺麗な銀髪をした男の子が立っていました
がそんな姿に見惚れていると
「なにしてんだよお前」
「ぇ、えっと、迷い込んじゃって・・・」
「・・・・・ついて来い」
銀髪の少年は何か考えた後短くそう言って
に近付き手を掴み、ズンズンと森の奥へ進んでいきました
「何、此処・・・」
「俺の家だ」
暫くして、森が開けたと思うと、目の前には大きなお城が現れました
は吃驚して目を丸くしていると
銀髪の男の子は無表情のまま、またの手を引っ張りお城の中へ入りました
「すごいね、とっても素敵」
「そうか?」
「うん、あ、あたしっていうの、よろしくね」
「あぁ、俺の名前は冬獅郎だ」
中へ入ると、まず目に付くのが大きなシャンデリア
そして真っ赤なカーペットに横が広い階段
「こんな広い所に、冬獅郎は一人で住んでいるの?」
は目をキラキラ輝かせながら聞きました
「あぁ、そうだ・・・」
「それは寂しいわね、可哀想」
「別に、可哀想なんかじゃねぇよ」
冬獅郎はふっと小さく笑うと何処から出したのか
いつの間にか近くにあったテーブルの上に2つのグラスと真っ赤なワインが置かれていました
「ワイン、飲めるか?」
「ぅん、少しぐらいなら」
が小さく頷くと
キュポン、とコルクがビンから抜ける音がし
コポコポコポ・・・、とそれぞれのグラスにワインが注がれました
「ほら」
「ありがとう」
は冬獅郎からグラスを受け取り一口口に含み
「美味しい」
と、冬獅郎に笑いながら言いました
「そうか?それは良かった」
「こんな素敵な所に連れてきてくれてありがとう、冬獅郎」
「礼なんか言うなよ、俺が好きで連れてきたんだ」
冬獅郎はそう言うと、テーブルにグラスを置きの手を取り
そっと手の甲に口付けをしました
「お前に一目惚れをした」
「ぇ////」
は告白を始めてされたので、顔を真っ赤に染めました
「あたしも・・・冬獅郎に一目惚れしたの」
「・・・そうか、もう今日は寝ろ、酒も入ってるからすぐ寝れるだろう」
部屋に案内しよう、と冬獅郎はを連れて大きな階段をゆっくり上ります
はすっかりパンを届けるという事を忘れ、冬獅郎の言うままに部屋へ行きました
ふとが目を開けると、目には高い天井が映し出されました
上半身を起こし、辺りを見回しましたがそこに冬獅郎の姿はありません
はなんだか心細くなりベッドから降りて部屋のドアを開けました
「・・・・っくそ、まだ足りねぇ・・・」
「冬獅郎・・・?」
「・・・」
はドアを開けて吃驚しました
来た時にワインを飲んだ所で、冬獅郎は女の人を抱きかかえていました
しかし、良く周りを見ると、その女の人だけではなく
何人もの女性が倒れていました
「・・・・・なんで起きるんだよ」
の脳裏にある言葉が過ぎりました
吸血鬼・・・
そう、はすっかり忘れていましたが、此処は吸血鬼がいると言われている森
「冬獅郎、あなた吸血鬼だったのね」
「・・・・」
が冬獅郎に尋ねると冬獅郎は悲しそうに俯きました
そんな姿を見ながらは小走りで階段を下り冬獅郎の目の前までやってきました
「血が・・・、足らないの・・・?」
「どれを飲んでも美味くねぇんだよ」
昨日までは何も思わなかったのに、と冬獅郎は抱きかかえていた女性を床に寝かしながら言いました
「なら、あたしの血を飲んで・・・?」
「ばっ、何言ってんだよ」
「全部は飲まないでね?まだあたし死にたくないの」
は優しく笑いながらそう言うと
両手を広げて冬獅郎を抱きしめました
「どうぞ、召し上がれ」
「あぁ、ありがとう」
はぎゅっと目を閉じます
すると柔らかい何かが唇に触れてから
首筋に痛みが走りました
そのあと、は自分の首に手をあててみると
噛み付かれた証拠として手に血がつきました
それとほぼ同時に、外から声が聞こえてきました
「ーー!!何処行ったんだーー!!!!」
その声は、紛れもなくの父親のものでした
ふと外を見るともう真っ暗で
随分長い間此処にいたんだと、は気づきました
「・・・」
「ごめんなさい、あたし行くわ、親が心配しているもの」
「・・・・そうだな」
「それにあなたが見つかってしまったら大変でしょう?」
きっとまだお父さんはこのお城の前まで来ていないだろう
さっきの声は小さかったし・・・
とは考え、悲しそうな顔をしている冬獅郎に触れるだけのキスをしました
「また、会いましょう」
「あぁ」
冬獅郎が頷くのを確認すると
は急いで持ってきていた紙袋を持ち
お城から出て行きました
その後、は無事父親と合流し家に戻りました
家に着くと母親に苦しくなるほど抱きしめられ
美味しい、温かいご飯を食べました
しかし、はそれから何があっても森に入るのを禁じられてしまいました
は悲しみながらもそれを守り
「数年後、違う男性と結婚をし、子供を産みました・・・・って、あら、もう寝ちゃったのね」
母親は小さな声でそう言うと
子供の額に触れるだけのキスをし
電気を消して部屋を後にしました
実は、あの話は続いているの
母親は自分の寝室へ向かうのではなく
キッチンの横にある裏庭に出るドアから外に出ました
「今日は随分遅かったな、」
「子供にあたしとあなたのお話をしていたのよ」
が結婚してから数年後
ある夜突然冬獅郎がの家の前に現れました
「の子供はその話が好きだな」
「えぇ、でもまだ一回も最後まで聞いたことないのよ、寝てしまって」
冬獅郎はが森に入れなくなったことを知り、自ら会いに来たのでした
はそれに涙を流し
再び愛し合うことを誓いました
「まぁ、知らなくっていいんじゃねぇか?まだその話は終わってねぇんだから」
「それもそうね」
が笑いながらそう言うと
冬獅郎もつられて笑いました
「愛してるぜ、」
「えぇ、あたしも愛してるわ冬獅郎」
その後、二人はいつもの様に愛を確かめ合いました
---END---
メルヘンチックなお話。
〜でした、を何回も使って疲れました。
語りは難しいです。
このお話は38号のジャンプでBLEACH連載5周年の巻頭カラー絵から考えました。