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それは8月6日の昼下がり、私達は出会った。
日差しはギラギラで、今にも襲ってきそうな入道雲が空に広がっていた。
私はいつもの場所へ向かうために額に汗を流しながら自転車を漕ぐ。
この時の私は、まだ、なにも知らない。
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「あっつー」
少し錆び付いてる自転車を漕ぎながら、私は田圃道を進む。
感じるのはじりじりと日光に肌がやられていく感覚と、
額や背中から流れる汗の感覚だけ。
それでも私は漕ぐことはやめず、ひたすら漕ぎ続ける。
私のお気に入りの場所に向かうために。
自転車の籠の中には、お弁当と水筒と、宿題と漫画が数冊。入るだけ入れてある。
私のお気に入りの場所というのはここらでは一番に大きい木の下で、
丘の上にあるから風があるし、日陰もできるからとても涼しい。
家にクーラーがあれはいいんだけど、そんなものはない。
私はそのくらい田舎に住んでいる。
唯一扇風機はあるけど1台だけで、それは昼間親が占領してしまっている。
だから私は仕方なく、こうやって毎日木の下に通っている。
まあ、好きだからいいんだけどね!昼寝も芝生で気持ちいいし。
緩い坂道を上って、私の視界に一本の大きな木が映り始める。
あともう少し、と思っていると、いつもと違うことに気付いた。
「人が、いる」
私がいつも座っているところに、見知らぬ人物が座っていた。
まだ遠いから顔は見えないけれど、多分男の子。
長い間ここに来ていているけど、初めて自分以外の人に出会した。
段々とその距離は縮められてゆき、数分後には顔が見えるくらいの距離に近付いた。
私は「キキッ」と自転車のブレーキをかけ止まり、そっと男の子に近付いてみる。
近付いても反応が何もないから顔を覗き込んでみると、男の子は眠っているようで目が閉じられていた。
本当に初めて見る顔だから、学校にいないんだろう。全学年100人もいないし。
髪の毛は真っ黒で、片目は眼帯しているけど睫毛長くて、なんか美男子、って感じ。。
ていうか、肌が真っ白。私も焼かないようにはしているけど、ここまではどうやったって無理だ。
つまりこれは、田舎に住んでいないのは一目瞭然だなあ。
私がそんなことを思いながらもう少し間近で見ようと顔を近づけると、
いきなり男の子は目をパッチリと開けた。鋭い眼差しが私に突き刺さる。
私はあまりにいきなりだったので驚き、後ろに尻餅をついた。
「お前、顔近」
「ごごごごごごめん!」
私は尻餅をついたまま取り敢えず謝った。
今思うと、知り合いでもないのにこんなことするのはおかしい。
とにかく何回も顔の前に両手を合わせ謝っていると、ぐい、とその両手を掴まれた。
「え、」
「息あたってんぞ」
「え、あ、本当ごめん!」
「キスすんならもっと上手く近付けよ」
「は?!」
そんな気はさらさらなかったのに、男の子はそう言ってニヤニヤと私を見下した。
まだ掴まれた両手は解放されていない。
「お前、名前は」
「ぁ、えっと、安藤、萌夏です、けど・・・」
「俺は高杉晋助。お前、10日まで俺に付き合え」
「ええ?!」
またしても驚くようなことを言われ、私の頭はついていかない。
でもそんなことはお構いなしに、高杉くんは私に顔を近づけてきた。
「いい、よな?」
「ぇ、ええっと、は、はい」
「じゃ、明日またここに13時に来いよ、いいな」
「え、ちょ、高杉くん?!」
「晋助でいい。じゃあな萌夏」
息がかかるくらい近付いたと思ったら、そういって高杉・・・晋助は私の手を解放し立ち上がった。
そして手元にあった携帯を拾い上げ、そのまま見る見るうちに離れていってしまった。
「ちょ・・・・・・一体なんなの」
ただ木の下であっただけの男の子と、5日間もの約束をしてしまった。
まだ名前しか知らないのに。
少しして私は我に返ったものの、もう晋助のことが頭から離れず、
ご飯を食べることぐらいしかすることができなかった。
8
月
6
日
(・・・・・・って、あれ?!もうこんな時間?!)
(お笑い始まっちゃうじゃんかー!!)