8月7日、12時55分。
私はお気に入りの場所こと、待ち合わせの場所に着いた。
自転車を近くに止めて、木の方を向くと、そこには既に晋助は着いていて座っていた。
「遅ェ・・・」
「えっ、でもまだ5分前なんだけど!」
「てか、チャリかよ」
「だって、自転車で此処30分近くかかるから、歩いたら1時間くらいかかっちゃうもん」
私が汗を拭きながらそう言うと、晋助は驚いたのか目を丸くした。
「チャリで30分・・・」
「ま、大体の所行くのにはそんくらいかかるんだけどね」
「ふーん、随分不便なとこに住んでンだな」
「そっかな、生まれてからずっと住んでるから別に気にならないけど」
汗を拭き終わった私は、そっと晋助の隣りに腰を下ろした。
さらさらと涼しい風が私達を通りすぎてゆく。
「そういえば、晋助はどうして此処にいるの?」
会話がなくなるのは良くないと思ったので、ふと頭に浮かんだ疑問を口に出してみた。
そういえば私達はまだお互いのことを名前くらいしか知らない。
10日まで過ごすということは、今日入れてあと4日間一緒に過ごすんだから、ある程度のことは知っておきたい。
「随分ストレートな聞き方だな」
「あ、ご、ごめん?」
「・・・所謂、里帰りってやつ」
「ああ、祖父母が住んでるのかー、夏休みだもんねー」
私がぽん、と理解したという意を込めて手を叩くと、晋助は話を続ける。
「ずっと面倒臭くて来ねェから、5、6年ぶりくらいだな、此処来るのは」
「そっかー、じゃ、今年は暇だったの?」
「・・・お前、言葉選べよ」
「ああ、ごめ、つい」
「まあいいけどよ、」
普段知らない人となんて話さないから、つい地が出てしまう。
確かに、さっきから私の発言はちょっときついかもしれない。
私は小さく深呼吸して、また口を開いた。
「じゃあさ、この5日間一緒に過ごすわけだけど、どっか行きたいとことかあるの?」
「別に、つか何あるかわかんねーし」
「それもそうだよね。うーん、どっかあるかなあ」
取り敢えず今日、此処にいてもいいけど折角だからどこかに連れて行ってあげたいな。
私は頭の中でここら辺一体を思い浮かべて考えてみる。
夏らしいところ、どこかなあ・・・。
「あ、川!川行こう!」
「あ?」
「こっから15分位の所にあるんだよ、おし、そこにしよ!」
そう言って私は勢いよく立ち上がると、自分の自転車まで走り、跨った。
それに続いて晋助がゆっくりと立ち上がる。
「・・・・・・待て」
「え?早く行こうよ」
「お前チャリだろ?」
「うん」
「俺徒歩なんだけど」
「うん、そうだね、だから・・・、」
ぽんぽん、と私は自分の自転車の荷台を叩いてみせた。
すると少し晋助の顔が歪んだのがわかる。
「二ケツってことだよな」
「うん、早く乗ってー」
「俺が、後ろ?」
「当たり前じゃん、川の場所わからないでしょ?」
ゆっくりと近付いてきた晋助は嫌そうな顔をしてなかなか自転車に跨らなかった。
まあ、確かに構図としては少しおかしいかもしれないけど、仕方ないじゃない。
「はーやーくー!大丈夫!私足には自信あるから!」
「・・・・・・はあ、そういう問題じゃねェよ」
大きすぎる程の溜息を吐いた晋助は、荷台をそっとなぞってから
「ったく、仕方ねえな」と小声で言って自転車に跨った。
「帰りは俺だからな」
「じゃ、道覚えてねー。しゅっぱーつ!」
私は晋助がちゃんと座ったのを確認すると、勢いよく地面を蹴った。
そしてゆっくりと二人の乗った自転車は動き出す。
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「あ、ほら、見えてきたよー」
「お前テンション高ェな」
15分程度漕ぎ続け、やっと川が見えてきた。
太陽の光が反射してキラキラと輝いている川には、何人かの人がいた。
「あ、あれ総悟たちだ」
「なんだよ、友達か?」
「うん、学校一緒の人たち」
私は砂利道の前にくると自転車を止めた。
完全に止まったのを確認した晋助は早々と自転車から降り、自分の尻を軽く撫でる。
「ケツ痛ェ」
「あー、タオルとか敷いておけばよかったね」
「今更遅ェよ」
私は道の端に自転車を止めなおし、籠の中に入っていたバックを持ち上げた。
今日のバックの中にはお菓子がどっさり入っている。
何するかわからなかったから、取り敢えず困ったらお菓子食べようと思って。
「じゃ、いこっか」
私がそう言って晋助の手を取ると、晋助はビクッと震えて手を引っ込ませた。
「え?」
「え?、じゃねえよ、なんだよ急に・・・!」
「だってここ石濡れてて滑るからさー、晋助初めてだから危ないかと思って」
「一人で大丈夫だっての!なめんな!」
そう捲し立てるように言うと、勢いよく私が触った手をズボンのポケットの中に突っ込んでしまった。
顔はそっぽを向いているけど、耳がほんのり赤くなっていて、
ちょっとビックリしたけど私はそれ以上何も言わないことにした。
昨日はあんな顔近付けてきたりしたのに、こういうのは駄目なんだなあ。
急になんか口調もちょっと変わったし、これがギャップってやつなのかな?
私達は少し下り坂になっている砂利道を下って、川縁に向かう。
そして川縁に着くと、既に川で遊んでいた数人が私達に気付き、近寄ってきた。
「じゃないですかィ」
「総悟とトシと銀ちゃん!」
「ちょ、が男連れェエエエ?!銀さんビックリ!」
近付いてきたのは総悟とトシと銀ちゃんで、
3人とも上にはTシャツやタンクトップを着ているけど下は海水パンツだった。
この3人は夏と言えば此処だもんなー。
「おい銀時、ビックリじゃなくてショックなんだろーが」
「おいおいおい、それ言っちゃう?!それ言っちゃうの?!」
「とかなんとか言って、土方もショック受けてんだろィ」
「総悟、てめ」
私達を無視してギャアギャアと3人は騒ぎ始めてしまったので、
私は取り敢えずバックを木陰に置いて、晋助の肩を叩いた。
「ね、川入ろうよ」
「あ、ああ。いいのかよこいつら」
「いつもこんなだから大丈夫!」
私は軽く晋助の肩を押して促すと、晋助は川の方へと歩き出す
それにいち早く気付いた銀ちゃんは、私達の後を追ってきた。
「、こいつ誰よ、見たことない顔だけど」
「えっと、晋助!私も昨日初めてあったんだ」
「ええっ、初日で?!初日でお前等そういう関係にィイ?!」
「・・・・・・こいつ、頭イカれてんぞ」
私の返事を聞いた銀ちゃんは両手で頭を抱えながらその場に立ち止まり蹲ると、
晋助はそれを見て冷たい視線を送った。
私が適当に笑ってそれを流すと、丁度川の目の前にまで着いた。
晋助より先に私は川の中に足をつけ、浅いことを確認して両足を入れた。
頭から照りつけてくる太陽の暑さと、川の冷たさのギャップに私は少し肩を振るわせた。
「冷たーっ、気持ち〜〜〜!ほら晋助!」
「ちょ、おま、かけてくんなよ冷てェな!」
バシャバシャと私が晋助に水をかけると、
晋助は顔を少し歪めて文句を言いながらも、自分も少しずつ川の中に入ってきた。
「っ、めて、」
「やっぱ晋助地元じゃあ川で遊んだりしないの?」
「川なんて近くねえし・・・・・・ってさっきから冷てェんだよコラ」
私は話をふりながらも晋助に水をかけるのをやめず、
それに腹が立ったのか晋助は私目掛けて水を蹴り上げた。
その水は見事に私に直撃して、一気に私のTシャツを濡らした。
「ひぃ〜〜〜〜っ冷たーい!」
「ざまあみろ」
晋助は、べっ、と少し舌を出しながらそういうものの、
私の姿を見ると一変して目を丸くし、若干目を逸らした。
「え?!ど、どうかしたの?」
「・・・べ、別に、なんでもねえよ」
「下着透けてますぜ」
「あーホントだ、水玉。銀さんはそういうのいいと思うよ、うん」
「そんなこと誰も聞いてねェだろうが」
ぴょこ、と音がしそうな感じに晋助の背後から現れた3人は、
そういって私の上半身をジロジロと見回した。
私もそれにつられて自分のTシャツに目を落とすと、確かにはっきりしっかり透けてしまっていた。
「あー、今日川くるとか考えてなかったからー」
「おい、少しくらい隠せよ」
「えーだってまだ濡れるんだから隠したって意味ないじゃん!」
私がそう言い、大きな溜息を吐いた晋助をみた銀ちゃんは、ニヤリと嫌な笑みを浮かべ、
するっ、と晋助と肩を組むように肩に手を回した。
「何々、都会っ子ってのはああいうのに免疫ないわけ?」
「ああ?」
「照れちゃって可愛いー、晋助だっけ?晋ちゃんて呼んでいい?」
「死ねよお前」
晋助は肩を組んできて密着している銀ちゃんの横腹に肘鉄を食らわしながらそう言った。
肘鉄を受けた銀ちゃんは顔を歪めその場にしゃがみ込む。
「〜〜〜〜っ、冗談通じねえなあもう!」
「銀ちゃんが悪いでしょ!」
「だな、お前が悪いぜ銀時、人を馬鹿にし過ぎた」
「旦那ったら相変わらずですねィ」
銀ちゃんはそう言ったものの私とトシと総悟の3人に責められると、より一層小さくなってしまった。
そんな姿に笑いつつ、私達は5人で川で遊ぶことになった。
石投げをして距離を競ったり、泳いだり、水かけっこしたり。
最初はぎこちなかった晋助もいつの間にか溶け込んでいて、洋服はびっしょり濡れてしまっていた。
なんだか昨日会ったばかりなんて嘘みたいに、
私達は日が暮れるまで遊び続けた。
8月7日
(ふあーっ、もうびっしょり!)
(おい、これ着ろよ)
(え?晋助の上着じゃんそれ。濡れてるし)
(でもその格好で帰るのは流石にまずいだろ!)
(でも晋助タンクトップで帰るの?日が暮れると寒くなるよ?)
(大丈夫だっつの、いいから着ろ。)