8月10日、私はもやもやとした気持ちを持ちながらも、待ち合わせの木の下へ向かった。

考え事をしながら自転車を漕いでいたせいか数分遅刻して着いた木の下には、すでに晋助がいて、定位置の所に座っていた。



私はなんだか初めてあった日を思い出す。

あれからそんなに経っていないはずなのに、なんだか凄く懐かしく感じた。

私が近付いても反応がないので顔を覗き込んでみると、両目は閉じられており、小さい寝息が聞こえた。

そっと、起こさないように、私は晋助の隣りに腰を下ろし、持ってきていた小説を開いた。



確か初めて会った日も、このくらいの気温で、日差しで、風もこんな感じだった気がする。










暫く小説を読んでいると、晋助の体勢が少し崩れて私に寄りかかるような体勢へ変わった。

肩に晋助の頭がきて、髪の毛が私の首をくすぐる。

私は少しくすぐったくなったので髪を退けるためにそっと晋助の髪に触った。

ほんのり甘い香りを漂わせながらさらさらと動く髪を私は少し手で梳いて、くすぐったくないようにする。

すると、ピクリと晋助は動いて、うっすらと瞼を開けた。




・・・?」


「あ、ごめん、起こしちゃった?」




私は慌てて手を離し元に戻した。

まだ寝ぼけ眼の晋助は、私を見つめ、目を擦った。




「お前、来るの遅ェ」


「ごめん、漕ぐの遅かったみたいで」




晋助は目覚めたものの私の方から頭を退けず、そのまま私に体重を預けている。

二人の会話はそれで途切れ、また沈黙していると、




「今日、来ねぇかと思った」




と、晋助は気まずそうな顔をして呟いた。




「え?」


「昨日の・・・アレで」


「あぁ・・・、私も、なんかごめん」




私が謝ると晋助は頭を離し、体勢を正して私の方を向いた。





「俺、今日誕生日なんだよ」


「へ?今日?!」





予想もしない告白をされ、私は驚き口を開けた。




「え、今日?8月10日?」


「ああ、」


「ちょ、そうならそうと言ってくれればいいのに!」


「自分から言うのは変だろ」


「結局今言ってるじゃん!」




さっきの空気とは一転、私は強めにそう言うと、自分のバックの中を漁る。




「私何もプレゼントできるものないよ」


「んなの、期待してねぇよ」




晋助は完全に覚醒したのか、いつもの口調にもどり、

少し笑いながらそう言うと、すぐに表情を戻してぐい、と私に近付いた。




「花火の時のヤツ、」


「え?あ、まだ晋助私に何も言ってなかったよね?」


「それプレゼントでいい」


「え、でもそれじゃあ・・・」


「いいんだよ。じゃ、まず目ェ瞑れ」





それじゃあ、プレゼントにならない。

だって言うこと聞かせれるのは晋助が勝負で勝ったからだもん。

私があげたものじゃないし。



私が不服そうに晋助を見ていると、「目瞑れよ」とまた言われる。

取り敢えず、今すぐには何もあげることはできないから、私は言うことを聞いて目を瞑った。




「あと、手、出せ」


「どっちの?」


「左」




私は目を瞑ったまま言われたとおり左手を前に出すと、

晋助のだと思われる手が私の左手を掴んだ。




「絶対目開けんなよ」


「わかってるよー早くー」




ぎゅっと、今よりも目を固く閉じた。

それを確認した晋助は小さく息を吐いて、ポケットからあるものを取り出す。





「俺、今日帰んだろ?」


「え?・・・ぅ、うん」


「ホントは、嫌なんだぜ?」


「えっ?!」




そう聞いて思わず私は目を開けそうになると、

「開けんなっての」と晋助に目を手で覆われた。




「ご、ごめん」


「こっちのが楽しいんだよ、俺の住んでるとこより」




生活するのは不便だけどな、と晋助は付け足す。




「それに、こっちには・・・から・・・」


「え?ごめん聞き取れなかった」


「別にいい。こっから聞け」




急に真剣な声になった晋助に、ドキリとした私は背筋を伸ばした。





「言うこと、絶対聞けよ?」


「う、うん、私にできることなら・・・!」


「お前・・・」





なんだか急に晋助の声が近くで聞こえた。

と、思った瞬間、私の唇に生暖かい、柔らかいものがそっと触れた。

私がビックリして思わず目を開けると、目の前には晋助がいて、

相変わらず目を閉じていると綺麗な顔が私の目いっぱいに映っていた。












「俺のこと好きになれよ」












キスをした後に、離れて晋助は小さい声でそう言った。

私の頭の中は真っ白で、ただただ見つめてしまった。

でも、嫌じゃない。

・・・・・・・・・むしろ、嬉しかった。





「・・・・・・・・・黙ってんなよ」


「・・・ぇっ、あ、ごめん・・・・・・ん?」





晋助の声を聞いて私は我に返ると、左手に違和感があるのに気付く。

そっと下を向くとキラリと薬指が光った。




「指、輪・・・?」


「祭りの射的で・・・当てた景品だけど」




買いに行きたくてもここら辺にねえから、と晋助は頬を淡く染めながら付け足して言った。

私は少し高く左手を挙げ、太陽にかざして指輪を眺めてみる。

おもちゃだけどとても綺麗な指輪で、私は自然と笑みが零れた。

でも今まで指輪なんて嵌めたことなかったから、なんだか変な感じがする。




「ありがと・・・嬉しい」


「どういう意味で」


「え?」


「指輪がもらえて嬉しいのかよ」




「それとも俺からもらったのが嬉しいのか世」と晋助は言って私を見つめる。

その眼は今までで一番真っ直ぐで、私を突き抜いてしまいそうな程強いものだった。




「そ、それは・・・・・・・・・、晋助から、だから・・・」


「そうとって、言いのかよ」


「う、うん」




私は身体が熱くなって、恥ずかしくなって、眼を逸らしながら頷いた。

多分今、全身真っ赤かもしれない。





「わ、私、今まで恋愛とか、したことなくて、わからないんだけど・・・」





銀ちゃんも総悟もトシも小さい頃から一緒で、大好き。

でも、晋助に対してはその好きとは違った。

一緒にいるといつもなんとなくドキドキして、くすぐったくて、





「多分これが、友達としてじゃなくて、好きってことなんだと思う・・・」





昨日一晩中考えて、出た結論だった。

昨日のうちはまだ不安というか、曖昧だったけど、今ならわかる。

これが好きって気持ちなんだっていうこと。




「今日で帰っちゃうけど、私ちゃんと言われたこと守るよ!というか好きだもん!」


「お前、自覚すると随分はっきり言うのな」




私の言葉に晋助は少し呆れた顔をすると、

小さく溜息を吐いて私を抱きしめた。




「あんま好き好き言うなよ、離れたくなくなる」


「ぇ?あ、ご、ごめん」


「・・・別に謝ることでもねえけど」




晋助はそう言うと「目瞑れ」と私の耳元で囁いた。

私はそれに従ってそっと目を閉じる。

するとまた唇にやわらかい感触を感じた。

それはすぐに離れて、終わりかと思って目を開けようとすると、

今度は少し違う角度でまた触れる。




また離れたと思ったら触れ、離れたら触れ、何度も何度も繰り返す。









「・・・っはっ、ちょ、タイム!苦しい!」


「んだよ、まだ足りねえ」


「く、苦しすぎるよ、息ろくに吸えないし・・・!」


「取り敢えず1年分しときてーんだよ」




「次いつ会えるかわかんねーんだから」と、晋助はまた私の唇に触れるだけのキスをした。





「私、ちゃんと会いに行くよ」


「俺も来る」


「ちゃんと電話とかもするから」


「ったりめーだろ」




晋助がそう言ってニヤリと笑うと、

今度は私から、晋助の唇にそっとキスをしてみた。

目を開けたままだった晋助は、目を丸くする。







「すきだよ」


































810
 (・・・・・・・・・てめ、不意打ちやめろよ、心臓に悪い)
 (え、だって、私からもした方がいいのかなって・・・)
 (お前ってヤツは・・・(銀時には手ェ出されねぇように念押しとくか))

 (HAPPY BIRTHDAY SHINSUKE!!)