あいつが一瞬見せた恐怖に満ちた顔が頭から離れない
「俺が・・・悪かったのかよ?」
俺はちゃんとそういうアピールしてたし、
それを拒否するお前のことは恥ずかしがっているんだと思ってた
「やっぱ女ってわかんねぇ・・・」
一人の女になんて執着するんじゃなかった
俺はズボンのポケットから煙草を取り出すと一本口に銜えて火をつける
最近はあいつの周りにいたせいか、本数も減っていた
煙を肺の奥まで吸い、ゆっくりと溜め息混じりで吐いた
ゆらゆらとゆれる煙と一緒に、あいつに対する気持ちも吐き出せればいいのに
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「やっぱり、高杉くんに謝りに行くべきだよね」
私は総悟の家を出て、家には帰らず近くの公園にやってきた
もう陽はだいぶ暮れていて子ども達の姿はない
「でも、今頃どこにいるんだろう。家わかんないし・・・」
少し錆付いたブランコに座り空を見上げた
そういえば、高杉くんは私の家には来た事あるけど、私は行ったことがない
それによく考えると、高杉くんの誕生日も血液型も知らない
「何も知らないじゃん、私・・・」
ギィ・・・と私が動いたせいでブランコが鳴った
その音が妙に耳に残って、急に虚しくなる
「今更・・・もう駄目かな」
私が高杉くんを拒否したんだ
高杉くんから逃げたのは私だ
「今頃、違う人といるかもしれないし・・・高杉くんモテるもんなぁ」
私と一緒にいる時だって何人も綺麗な女の人が寄って来てた
今頃その女の人達と遊んでるかもしれない
私と一緒にいた時は、いつも断っていたけど・・・
「家、帰ろ・・・・」
ブランコから降りると、カシャンと音が響く
それとほぼ同時に、嗅ぎ慣れた匂いが鼻を掠めた
「この煙草の匂い・・・」
高杉くんのだ、
そう思ったら、私の足は自然と動いていた
「・・・?」
「ぁっ・・・・トシ・・・」
「お前まだ帰ってなかったのかよ」
「あーうん、ちょっと公園でブランコ乗ってて・・・」
公園から出ると、煙草を銜えたトシに会った
「・・・・煙草、トシのか〜」
「は?」
「あ、いや、なんでもない」
「よくわかんねぇけど・・・もう暗ぇし送ってやるよ」
トシはそういって私の横に並んだ
「ぇ、いいよそんな悪いし・・・」
「遠慮すんなや、いくらでも襲われるかもしんねーだろ」
「いくらってちょっと酷くない?」
「冗談だよバカ」
私が少し睨み付けると、鼻で笑われた
トシともなんやかんや付き合いは長くて、総悟程ではないけど気を抜いて話せる
「お前、高杉と俺間違えたんだろ」
「なっ、そんなこと・・・!;」
「俺と高杉煙草一緒だからな」
「・・・・ご、ごめん」
「なんで謝んだよ」
トシはまた鼻で笑うと私の頭に手を置いた
「仲直りできるといいな」
そう言ってニッと笑ったトシに、
ときめいたのは秘密
お兄ちゃんみたいな彼
(トシってなんかお兄ちゃんみたい)
(お前みたいな妹は願い下げだけどな)
(なっ、最近Sじゃない!?総悟の影響!?)
(あいつと一緒にすんじゃねぇよっ!)