「あ、総悟おはよー」
「あ、雌豚」
次の日、朝から昇降口で総悟に会った
「もうその呼び方やめてよ、公衆の面前なんだし」
「雌豚がご主人様に向かって生意気な口聞くんじゃねぇや」
「ちょっとォオオオオッ!勘違いされるだろ馬鹿ァアアアアッ!」
パシンッと総悟の頭を軽く叩いた・・・・と思ったのに、
ゴツンッと鈍い音がそれに少し遅れて聞こえた
「テメェ・・・・」
総悟の目の前には下駄箱があって、
軽く叩いたつもりだったのに総悟の顔面はその下駄箱に衝突した
下駄箱とキスしてやがんの総悟の奴、ぷぷ
「・・・・・・なんて考えてる場合じゃないな;」
「折角の王子フェイスが台無しでさァ・・ははっ」
総悟の顔がイッちゃってる
ブツブツなんか呟いてるし・・・
なにしろなんか黒いオーラが・・・
取り敢えず此処は逃げるしかない
このままじゃ確実殺されるっ!
私は運良くもう上履きに履き替えていたから、ゆっくりと総悟から離れた
「そ、総悟アンタ随分気を抜いてたんだねっ、まさかぶつかるなんて・・・」
「ははっ、そこから動くんじゃねェ、大丈夫、一瞬でさァ・・・」
「一瞬ってなんだよ!超怖いからっ!つか動きます、すいませんねっ!」
「チッ・・・、予定変更、じっくり弄ってやらァ」
「きゃぁああああああっ来ないで馬鹿ァアアアアアッ!!!」
私は全力疾走でその場から走り出した
総悟は少し遅れて走り出す
私の奇声に近い悲鳴は学校中に響いた
******************
「まずいな、本気まずい、そろそろ絶対追いつかれる・・・」
追いかけっこ・・・、じゃなくて総悟に追いかけられて早5分経つ
元々私は体育得意じゃないからスタミナもない、特に足も速くないし
今までは恐怖心でなんとか走ってきたけど、そろそろ限界
「誰かいないかな・・・・・・・・あ、トシ発見!トッシィイイイイッ!!!!」
「あ?」
キョロキョロ周りを見回して見ると、
学校にも構わず煙草を吸っているトシがいた
私が大声で呼ぶと眉間に皺を寄せて振り向いたものの、
その顔は見る見るうちに青くなっていった
「ちょ、お前・・・・後ろ・・・・」
「助けてよトシッ!このままじゃ私殺されるの!」
「いやいやいや俺も殺されるから、つかこっち来んな馬鹿っ!」
「それは無理だっ、もう後戻りしたら総悟に捕まるもん!」
私はそう言いながらトシの横を通り過ぎると見せかけて
トシの背中をそっと総悟に向けて押した
「う゛ぉっ」
「数秒でもいいから総悟の足を止めてトシ!」
「おま、ふざけんなァアアッ!!!!;;」
トシはそう怒鳴ると何故か身体の方向を変えあたしの方に走ってきた
「ちょ、なんでくんの!」
「逃げなきゃ俺が死ぬ」
「もうトシの役立たず!」
「元はと言えばお前のせいだろォッ!!」
ペシン、と軽い音ながらもトシに頭を叩かれた
私は叩かれた場所を押さえながらトシを睨むものの、トシはそれを完全無視
小さく溜め息を吐いてから、また走るのに集中することにした
「それにしてもアイツがあそこまで怒るなんてお前何したんだよ」
「いやね・・・っ、ちょっと叩いたら二次被害的な・・・」
「ったく・・・ろくな事しねぇ・・・」
「なっ、仕方な・・ぎゃっ!」
「あ?!?あいつ何処行きやがった!?」
長い廊下を走って、脇道に曲がった瞬間、
誰かに腕を引っ張られよく分からない部屋に引き込まれた
その部屋は真っ暗で、私の目の前に誰かいるもののはっきりとわからなかった
でも、直に目も慣れてくるわけで、
「高杉・・・・くん・・・・・っ」
私の目の前には不機嫌そうな高杉くんがいた
「なんで追われてんだよ」
「ぁ、いや、ちょっと怒らせちゃって・・・」
「・・・・・・・」
私が喋ると高杉くんは黙り込んでしまった
さっきまで気付かなかったけど、この部屋はとても煙草臭い
「もう平気だから行けよ」
「ぁ、あの高杉くん・・・!」
「行け」
「・・・・・・助けてくれて、ありがとう」
高杉くんの声は昨日までと違ってとても冷たくて、
もうこれ以上なにも言うなと言うようなオーラを出していた
私はお礼を言うとそっとドアを開け高杉くんを見ずに出て行った
擦れ違う青春人
(あいつを見た瞬間、勝手に手が動いてしまった)
(もう係わるのはやめようと思っていたのに)
(あまり長く一緒にいたら自分が駄目になる様な気がしたから)
(冷たい言葉でお前を突き離すことしかできなかった)