ふと、部屋の隅に積み重ねてあった、アルバムが目に入った
中学時代の卒業アルバム
春雪の頃
「まだ少し寒いね」
二月の末、中学三年の俺とはもうすぐ卒業式
はマフラーに顔を埋めてそう言った
「そうだな・・・」
「あ、そうだ、あのね、冬獅郎」
俺が相槌を打つと、が急に少し真面目な顔をして話し出した
「あたし、卒業したら、寮に入るんだ」
のその言葉に、俺の頭の中は一瞬にして真っ白になる
「あたしね、将来音楽をやりたいの。冬獅郎に前ギター弾いて見せたじゃん?あたし、ギタリストになりたいんだ」
俺の隣で、俺の歩調に合わせながら、
は寒さに小さく震えながらも、将来の夢、思い出を話した
「・・・そ、そうか、頑張れよな、ならなれるぜきっと」
「うん、ありがと冬獅郎!」
俺は在り来たりな返事をする
今までは何気なく過ごし、当たり前のように思っていた三年間
今じゃその大事さ、儚さに気付き寂しさが滲んだ
ふと、の細い手が目に入る
この手を、何度掴もうと思ったか
長い間一緒にいたのに、一回も掴む事は出来なかった
俺は自分の手を見つめ、なんだかより一層寂しくなって手を隠した
帰宅路の坂に差し掛かると、は急に走り出し、少し行くと止まって振り向き笑った
「どうした?」
俺もふざけて真似をして笑う
「ううん、特に理由はないんだけどね、少しでも思い出をつくりたいな、って思ったの」
もう冬獅郎となかなか会えなくなっちゃうから
と、は残念そうに微笑んだ
「そっか」
の言葉は、俺の心にチクリと刺さる
俺は、アルバムを開き懐かしさに、浸る日がこないで欲しいと強く願っていたから
思い出の1ページじゃ、あまりにも寂しすぎる
この関係が変わらなくったって構わないから
もう少しだけ、の中では、もっと大きな存在になりたい
歩き慣れたはずの坂が、との距離が、どんどん遠くなっていくような気がした
「じゃあ、また明日ね冬獅郎!ばいばい!」
「おう、またな」
と別れる、交差点
一人家に帰ってゆくの背中を、いつもより少し長く見届けた
「見飽きてた帰り道も、あともう少し、なんだな・・・」
俺は小さな声でそう呟き、から目を離し歩き出した
君想い、君に揺れ、また想い・・・。届かなくて
数えたらきりの無い、不器用に過ぎる青き日々
ずっとずっと変わらず、ずっと・・・、このままでもいいから・・・
せめて君よ。
忘れないで。
記憶の欠片じゃ、悲しい
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