私と修兵の家は、隣同士。しかも、私の部屋から修兵の部屋に行けたり、相手の部屋が丸見えだったりして、カーテンを閉めてないと、色んな意味で危ない。けど、修兵はそれを利用して、毎日何かを奢る代わりに毎朝起こせ、という約束をした。勿論、乗った。そして、現在朝の七時二十分。窓を開けて、ベランダに出て、修兵の部屋のベランダに移る。そして、予め開けておいてと頼んでおいた、修兵の部屋の窓を開ける。部屋に入り、ベッドを見ると、真ん中部分がもっこり膨らんでいて、そこに何かがいる事が分かった。髪の毛やら足なども食み出ていて、流石に誰かがその中にいない、って事は無いだろう。
「修兵ー、お・き・ろっ!!!」
「……ぅおわッ!!!!!」
勢い良く布団を剥ぎ取ると、その勢いで、修兵がベッドから落ちた。ごちん、と痛々しい音を響かせ、その頭を擦り、現在の状況を把握しようとする。その際に私の存在に気付く。嗚呼、犯人はこいつか、とでも思ったのだろう。この小さな部屋の中で叫ぶ。
「、てめ…危ねえだろ?!」
「ごめん。落ちるとは思ってなかった」
あくまで冷静に、受け答えをする。それに対し、修兵はもうどうでもいいや、と言わんばかりにそっぽを向いて、立ち上がる。部屋の入り口でもある出口のドアノブに手を掛け、出て行こうとする。それに対し私は、修兵とは逆の方向で、部屋の窓、はっきり言って、入り口でも出口でもないところから出て行こうとすると、修兵が唐突にも驚く台詞を吐く。
「あ?……お前、飯食ってかねえの?」
「は?……良いの?」
「良いと思うぜ。あ、でも、誤解招かねーように、ちゃんと玄関から入れよ?」
「あ、うん。……分かった」
――その後、私は修兵の家で朝食を取り、修兵の自転車の後に乗っかり、学校へ急いだ。
「ちょっと!もうちょっと早くできないの?!」
「うるっせってんだ、これが精一杯だっつーの!!!」
「サッカーだっけ?運動部に入ってるのに情けな…」
「てめ…振り落とすぞ、コラ」
ちょっと古めいた自転車をギコギコ、走らせ、坂を下る。その時の頬を掠める風が心地良かった。そして、学校へは、ものの数分で辿り着いた。この時間が惜しい、なんて、今更思わなかった。思ったところでしょうがない。もう、幼馴染への恋は諦めた。私には、修兵の背中を見つめる事しか、出来なかった。
「おい、着いたぜ……聞いてんのか?」
「…っあ、う、うん。どもっす」
「……お前、そんなテンションだったか?」
「あ、いや、大丈夫ってば、おお、ほら!遅刻すんじゃん、走ろ!」
先手必勝。早いもん勝ち、ってな訳で、修兵より早く駆け出す。ゴールラインは玄関。それを越えてからも試練はまだまだあるが、最初の門を潜り抜けなければ何も始まらない、って訳で、走る。別の意味では、逃げていた。情けない、そんな言葉が私の頭を横切る。分かっている、未練たらたらな自分から逃げているんだって事は。けど、どうしても毎日想ってしまう、あいつの顔を忘れる事なんて今の私には出来なかった。
「…はあ、…はあ、む、無駄に…体力使っちゃったよ…」
「情けねーな、まだ階段もあんだぜ?後何分だよ…うわ、後五分しかねーじゃん」
急ぐぞ、と言う言葉を合図の様に、下駄箱のすのこの上に乗る。そして、靴を取り出し、履く。クシャ、何やら音が鳴る。それは、靴を履く時にはそぐわない音で、靴を確認すると、その音の犯人がクシャクシャになった状態で現れる。私をそれを更にクシャクシャにするように、拳の中で握る。丁度、これを見られたくない本人が現る。
「おう、靴履いたか?」
「…は、馬鹿じゃん。敵を待つとは余裕だね」
「――って、おい、コラ!」
「早いもん勝ちだもーん」
私は色んな物から逃げている。そんな事、分かっている。ただ、それが自分の苦痛にしかならない事も、分かっている。けど、これしか自分には出来ない。噛み締めた唇だって、いつかは消える。握り過ぎて血が滲んだ拳だって、いつかは消える。途方に暮れていた私に手を差し伸べる様に、思い浮かんだのは、“逃げ”。虚偽しかない自分が、醜い。そう思っていたとしても、この道しか進める道は無かったから――。
「おはよー!」
「あ、お早う、ちゃん…えと、檜佐木くん」
「あら、修兵。今日は早いのね」
「…おう」
私は、こっそり、そんな感じに席に着き、みんなが喋喋として喋る様子を横目で見ながら、他人を羨む自分を、抑えながら、頬杖を付きながら、一限目の準備をする。その後、みんなに見られないよう、あのクシャクシャにした紙を開き、中身を見る。思っていた通りの中身で少々吃驚しつつも、私は心の中の隅で、ある事を決心していた。
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「で、私に何の用?」
「ああああ、ああ、あのっ、俺、ずっと前から見てました!すきです、付き合って下さい!」
あの紙の中身はいわゆる呼び出し。『今日、放課後学校の裏で待っています。By.SY』普通、名くらい名乗れよ、と言う突っ込みは抑え、素直に来てやった。ら、ベタな方向へまんまと進んじゃって、失笑寸前。重い溜息を付いた。そして、さっきした、決心を今、
「――、い、」
「おら、何こんなとこでイチャついてんだよ」
「ひ、ひさ――」
「おい、おめぇ、今直ぐ俺の前から消えろ」
「は、はははぃ!!!!」
その走りの速さはチーター並みだとも言えた。まるで、恐ろしい野獣に襲い掛けられそうになり、咄嗟に逃げる、小動物。檜佐木が、どんな顔をしていたのかは見えなかったが、声で分かる。――何故か、怒っている。心当たりなど、端から無かった私には、どう対応して良いか、分からなかった。
「…ぁ……あの?」
「お前、何告られてんだよ」
「は?!そんなん、人の勝手じゃん、あんたに関係ないじゃん!」
「関係あんだよ!!」
「っ、な、」
「俺が、今までお前に何とも想ってなかった、とか思ってんのか?!」
思考が停止する。今、私は檜佐木に何て言葉を掛けられた?その意味は何?しばらくの沈黙が、重たく続く。一方、檜佐木は檜佐木で、顔を若干赤らめ、手の甲で口を覆い隠す様にしている。――と言う事は、さっき言った事は嘘じゃなく、本当の事。だとすると――、
「馬鹿。――そっちこそ、こっちが必死にあんたを想わないようにしてたの、知らなかったじゃん。」
「るせーよ、ばーか。お前がとっとと気付きゃあ、良かったじゃねーか」
「そんな自意識過剰になれないよ?!そんなのあんただけじゃん!」
「はっ、俺は自意識過剰じゃねーもん」
「そこ、威張るとこ違うし」
二人、同時に笑いが零れる。
「馬鹿だね、私達」
「あーあ。何だったんだ、今までの」
「本当、返せ、って話」
「てかさー、――俺ら、両想いだよな?」
「……う、うん。…たぶん」
「たぶん、て何だよ、このやろ」
「だって、何かそう言われると、…えと、その、こま――
触れる。何かが。その何かは、直ぐに触れると、直ぐに離れる。たった一瞬の出来事でも、私の脳には深く、切り込まれてた。私が、呆然をしていると、檜佐木がそれに、嘲笑に似た笑みをする。言い返せなかった、だって、今の自分の頬が、真っ赤だと、その頬が、今の私を物語っていたから――。
「今までの分、な」
「……っな!!!」
僕達は、足元を見ずに歩いて来た。けど、これからは見て歩ける。そう、二人で――、
look step step step!
step and walk...
PoliPのゆあ様からいただきました!
キリ番を偶然踏みまして、リクエストさせていただきました。
リクエスト通りで凄いうはうはです\^∀^/
ありがとうございました、ゆあ様ー!!
しずや